職業野球を追いかけて

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野村克也vsイチロー、1995年日本シリーズの配球を観る

先日亡くなられた野村克也さんが書いた『野村ノート』をひさびさに読み返した。

野村ノート (小学館文庫)

野村ノート (小学館文庫)

  • 作者:野村 克也
  • 発売日: 2009/11/19
  • メディア: 文庫
 

興味深い事柄はいくつも書かれていたが、今回注目したい点は、1995年に行われた日本シリーズ、ヤクルト対オリックスでのイチロー攻略法についてだ。

野村さんはイチロー攻略について、こう記している。

事前のスコアラーの説明では「イチローにはまったく弱点が見当たりません」とのことだったから、イチローの内角攻めへの意識を高めるべく、私はテレビや新聞でインタビューを受けるたびに、「イチローは内角に弱点がある」といい続けた。

 日本シリーズでのイチローはシーズン中のイチローとは明らかに別人で、完全に壁を崩していた。だから外角中心に攻略し、まずまずの成功を収めた。結果は19打数5安打(打率2割6分3厘)、1本塁打、打点2。

 また、イチローという打者に関しては

日本人の多くの打者は見逃し三振をしたくないために、追い込まれるまでは変化球にヤマを張っていても、ツーストライクを取られるとA型(直球に重点を置きながら、変化球にも対応しようとするタイプ)に変わる。

なかにはイチローのように「変化球をマークしながら直球にもついていく」という天才的な打者もいるが、ほとんどの打者は、それでは変化球という遅い球をイメージするから直球が来たときに手が出なくなる。逆に速い球をマークしていれば、変化球が来てもファウルで逃げることができる。

 と、バッティングの才能を高く評価し、さらになぜイチローが天才なのかという理由まで説明している。

 

これらを踏まえて、1995年、野村克也並びにスワローズバッテリーがイチローにどのような配球を見せたかを、筆者が見られた映像資料限りではあるが、振り返りたい。

なお、どこに投げられたかに関しては、以下の画像の番号を使い、示すことにする。

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※センター方向から見た図。太枠内がストライクゾーン

第1試合 1打席目

オリックス0-0ヤクルト

投手:テリー・ブロス 1回裏無死無走者

1球目:144km ストレート 外角高め4番 ボール

2球目:130km スライダー 内角真ん中12番 見逃しストライク

3球目:143km ストレート 内角高め7番 右飛

外角高めにストレートを見せたあと、内角に食い込むスライダーを投げ、最後は胸元を突くストレートを打たせて右飛に抑えていることがわかる。

第1試合 2打席目

オリックス0-1ヤクルト

投手:テリー・ブロス 3回裏二死無走者

2-3フルカウント

7球目:145km ストレート 外角高め4番 空振り三振

なお、この場面で古田は外角高めではなく、外角低めにミットを構えている。ブロスの失投と見るべきだろう。

第1試合 3打席目

オリックス1-3ヤクルト

投手:テリー・ブロス 5回裏二死無走者

カウント1-0

2球目:141km ストレート 内角高め7番 中飛

第1試合 4打席目

オリックス2-3ヤクルト

投手:テリー・ブロス 7回裏一死一塁

カウント0-0

1球目:138km ストレート 内角高め7番 中安

安打ではあるが、センター前方へ落ちるポテンヒット。これを運がよかったヒットと見るか、巧みに落とした当たりと見るかは、人によって別れるだろう。

 

第1試合は確かに内角を攻めていることがわかる。また、全体的に高めへも攻めているようにも見える。全打席で最後の球が高めに投じられたことからも見て取れるだろう。

 

第2試合 1打席目

オリックス0-0ヤクルト

投手:石井一久 1回裏無死無走者

カウント1-2

4球目:141km ストレート 内角高め1番の左上 死球

背中に当たる死球となった。ただし、このとき古田は外角真ん中のボールゾーンに構えており、石井による失投だったことがわかる。

第2試合 2打席目

オリックス1-0ヤクルト

投手:石井一久 3回裏無死一塁

カウント1-2

4球目:139km ストレート 内角真ん中12番 捕邪飛

第2試合 3打席目

オリックス2-0ヤクルト

投手:石井一久 5回裏二死無走者

カウント0-3

4球目:134km スライダー? 外角低め25番 四球

第2試合 4打席目

オリックス2-0ヤクルト

投手:伊東昭光 7回裏二死無走者

2-3フルカウント

?球目:132km チェンジアップ 内角低め17番 空振り三振

第2試合 5打席目

オリックス2-2ヤクルト

投手:山部太 10回裏無死無走者

カウント2-2

?球目:138km ストレート 外角高め9番 中飛

 

第3試合 1打席目

ヤクルト0-0オリックス

投手:吉井理人 1回表無死無走者

カウント2-0

3球目:フォーク 内角低め22番 空振り三振

第3試合 2打席目

ヤクルト1-0オリックス

投手:吉井理人 4回表無死無走者

カウント1-2

4球目:138km ストレート 真ん中高め3番 中安

3試合目にしてようやくのクリーンヒット。古田は内角真ん中辺りに構えていたが、真ん中高めに行ってしまった。

第3試合 3打席目

ヤクルト1-0オリックス

投手:吉井理人 5回表一死一、三塁

カウント0-1

2球目:124km フォーク 真ん中低め23番 右犠飛

あわやホームランの大飛球も、ライト・橋上秀樹がフェンス際でキャッチするファインプレーを見せて犠牲フライに。

第3試合 4打席目

ヤクルト2-2オリックス

投手:宮本賢治 7回表一死二、三塁

カウント0-3

4球目:敬遠

満塁策を取り、次打者であるD・Jとの勝負を選択した。

第3試合 5打席目

ヤクルト3-4オリックス

投手:高津臣吾 9回表一死無走者

カウント0-2

3球目:ストレート 内角高め7番 見逃しストライク

4球目:141km ストレート 内角高め7番 三邪飛

2球連続で内角高めにストレートで攻め、ファールフライに打ち取った。

 

第4試合 1打席目

ヤクルト0-0オリックス

投手:川崎憲次郎 1回表一死二塁

カウント1-0

2球目:148km ストレート 内角高め7番 投ゴロ

第4試合 2打席目

ヤクルト0-0オリックス

投手:川崎憲次郎 2回表二死満塁

カウント2-0

?球目:144km ストレート 内角高め7番 二ゴロ

第4試合 3打席目

ヤクルト0-0オリックス

投手:川崎憲次郎 5回表二死無走者

カウント2-2

?球目:147km ストレート 真ん中高め3番 三飛

第4試合 4打席目

ヤクルト1-0オリックス

投手:川崎憲次郎 7回表二死一塁

カウント0-1

2球目:139kmストレート 真ん中13番 右安

捕手の古田は内角に構えたが、真ん中に甘く入った。

第4試合 5打席目

ヤクルト1-1オリックス

投手:山部太 9回表一死一、三塁

カウント2-2

?球目:123km スライダー 外角真ん中14番 遊直

第4試合 6打席目

ヤクルト1-1オリックス

投手:伊東昭光 11回表二死無走者

カウント2-2

?球目:123km チェンジアップ 外角低め25番 空振り三振

 

1、2打席は内角球で打ち取ったが、5、6打席目は外角が結果球となった。

攻め方を変えてきたか?

 

第5試合 1打席目

ヤクルト0-0オリックス

投手:テリー・ブロス 1回表二死無走者

カウント2-2

?球目:143km ストレート 外角高め4番 右本

イチローシリーズ初本塁打。古田は内角高めに構えたが、甘く入った。

第5試合 2打席目

ヤクルト2-1オリックス

投手:テリー・ブロス 3回表二死一塁

カウント不明

?球目:139km スライダー 内角低め17番 二ゴロ

第5試合 3打席目

ヤクルト2-1オリックス

投手:テリー・ブロス 5回表一死二塁

カウント1-3

5球目:149km ストレート 外角高め5番 四球

第5試合 4打席目

ヤクルト3-1オリックス

投手:テリー・ブロス 8回無死無走者

145km ストレート 内角高め7番 右安

 

以上が、1995年日本シリーズにおける、イチロー対スワローズバッテリーの配球だ。

イチローの打撃成績は、打率.263(19-5) 1本 2打点

観ることが出来た映像では全配球を把握できなかったため、ほとんどが結果球のみの掲載だが、やはり全体的に内角を攻めていた様子が伺える。

また、『野村ノート』には記されていなかったが、高めへのボールの要求も多かったように思われる。

 

さらに興味深いポイントは、イチローが持つ対応力の高さだ。

第1試合の2打席で、イチローはブロスが投じた外角高めのストレートで空振り三振を喫しているが、第5試合の1打席では、同じブロスが投じた外角高めのストレートを見事スタンドに運んでいる。

また、第5試合の4打席では執拗に攻められて苦しんだ内角高めへのストレートをライト前へ綺麗に運んで安打にした。苦しみながらも最後は復調の気配を見せたイチローの対応力には驚かされる。このシリーズではヤクルトが日本一に輝いたが、“ささやき戦術”が無ければ、スワローズを大いに苦しめたに違いない。